河本はその著書において、外界と物質代謝を行いながら自己維持する動的平衡 システムを第1世代システム、結晶などの環境条件に対応して形態変化しなが ら成長する自己組織化システムを第2世代システム、オートポイエーシ スを第3世代システムとして位置付けている。その位置付けから、 2.2 のオートポイエーシスの特徴を解釈している。その中で最 も力点が置かれているのが、入出力の不在である。
マトゥラーナはその著書において、非オートポイエーシスシステムの代表例と して自動車を挙げている。自動車の自動車としての自己維持は運転者からの入 力と結果としての出力の関連があって初めて成立する。それに対して、生命シ ステムはその構成要素を繰り返し産出することにより自己維持しているのであっ て、他からの作用により自己維持しているのではない。外界から栄養物を取り 入れはするが、栄養物に対応して有機体が決定するのではなく、あくまで自己 の産出プロセスがあって、そのプロセスに栄養物は従属している。入出力とい う観点は観察者のものであり、その観点では有機体の機構は明らかにはならな い。
「入出力の不在」の強調において重要であるのが、システムをその産出活動を 中心に捉えるという視点である。オートポイエーシスは産出関係のネットワー クであり、空間内で一定の形態を維持する動的平衡システムでもなければ、形 態を変えながら変動する自己組織化システムでもない。また、システムと外的 条件の入出力の因果的な作用関係でシステムを捉えたのでは、産出的作動を理 解することは出来ない。
細胞システムの例でいえば、細胞は自らの構成要素を産出する活動を行ってい るだけであって、大気中の酸素との関連で調整しながら構成要素を産出してい るわけではない。結果として酸素濃度が産出活動に影響を与えることはあるが、 その影響を判定するのは観察者であって細胞ではない。細胞に内的な視点から システムを捉える限り、システムには「入出力は不在」である。